広島県  
     
広島市「小網町電停」    
   
  大正元年に開通、戦前、戦後を通じ、広島市民の足として市内を網羅してきた路面電車。広島を訪れた者にとっても、広島観光の思い出の一つとして、強い印象を心に残す。

そんな路面電車も、町中を一歩抜け出すと、まったく違った姿を見せてくれる。場所は、宮島方面へ紙屋町から5つ目、小網町電停。

人通りもまばらな、ひっそりとした雰囲気の中、道幅いっぱいに広がる石畳の上を路面電車が走る。路上に描かれた「電車のりば」という文字のみが電停の存在を示し、ついさっきまで周りを包んでいた人と車が行き交う喧騒を全く感じさせない、情緒あふれる空間がそこに現れる。

広島にもこんな通りがあったんだ。時間が経つのを忘れ、その空間に魅せられる。
     
     

 
広島市「8月6日」
 
暗闇の中、途切れることなく平和公園を埋め尽くす人々の姿。ある人はライトアップされた原爆ドームのそば、爆心地を流れる元安川に浮かぶ灯篭を見守り、ある人は平和の灯に祈りを捧げ、ある人は慰霊碑へと続く長い列に並ぶ。何があるわけでもない、ただ、8月6日になると、どこからともなく人々がこの地に足を運び、それぞれの思いでかつての不幸な出来事を思い起こす。

小さな子供を連れた家族連れから、仕事帰りの会社員、お年寄りまで、自然と集まる人々の姿に、この日を忘れまいとする強い気持ちを感じて、嬉しくなる。60年経ち、既に戦争を知らない世代にも浸透し、さらに次の世代へと受け継がれようとしている広島の想いが、目の前で繰り広げられる。

慰霊碑を前に、心から出てくるただ一つの思い。次の時代は自分達が引き継ぐので、ゆっくりとお休みください。

人々の強い思いが集まり、身が引き締まる厳かな雰囲気へと変わる8月6日の平和公園。そこで自然と出てくる犠牲者に対する自分の誓い。一年に一度、あらためて気付かされるこの体験こそが、原爆慰霊の日の意であり、真の平和の心につながるものではないだろうか。
 
 

 
広島市「宮島弥山山頂」
 
神の島として、古来人々の信仰を集めてきた宮島。瀬戸内海に浮かび、その大きさは周囲約30km、島内には、朱塗りの鳥居を擁する厳島神社を始め、信仰の証として建てられた多くの神社が立ち並ぶ。

その信仰の対象とされるのが、標高535mと、この島で最も高い山、弥山(みせん)。弘法大師が806年に開創したという歴史を持ち、山岳信仰の霊峰として人々から崇められてきた。

「厳島の真価は弥山からの眺望にあり」という言葉があるように、その山頂からの景色がすばらしい。穏やかな瀬戸内の海面に浮かぶ大小の島々。これまでの、どこまでも広いという海の概念を覆される、自然の織り成す美しい景色を、ただいつまでも眺め続ける。

 
 

     
岡山県    
   
真庭市「醍醐桜」    
  場所は、岡山県真庭市。中国地方の山奥に、ただ一本、千年に及ぶ樹齢を数える巨木がある。

日本名木百選にも選ばれたその木は、歴史の舞台にも登場する。醍醐桜との名称は、1332年、後醍醐天皇が隠岐に島流しになる際に立ち寄り、この桜を賞賛したことによるもの。

雲一つない青空に、周囲に広がる緑の映える山々、そして、そこに一本、圧倒的な雰囲気で堂々と枝を広げる桜の木。桜の魅力は、木そのものにある。木を包む黒ずんだ樹皮は、過ぎた年月を感じさせ、花の存在に関わらず、引きつけられる。

老翁の格を感じさせる巨木に、繊細な花をまとう美しさ。力強く、それでいて包み込むような優しさを兼ね備えたその存在に、ただただ魅せられる。

種はアズマヒガシで、花は小ぶり。満開の花々が吹雪き始める光景に、この先これ以上の桜に出会うことがあるのだろうかと、至福のひと時を過ごす。
   
     

   
福岡県  
     
北九州市「門司港レトロ」    
   九州の玄関口として、関門大橋により本州とつながる町、門司。その歴史は、明治22年の門司港開港により花開く。
北九州工業地帯と大陸を結ぶ貿易基地として繁栄、国内、国外の航路として、年間600万人近い乗降客がいたという。

門司港レトロとは、100年経た今に、かつての国際貿易港の面影を残す古い街並みを紹介する取り組み。整備された街並みの中に残る歴史のある建物に、当時の様子を垣間見る。


JR門司港駅
大正3年(1914年)建築の九州最古の木造駅舎。ネオ・ルネッサンス様式という外観から、門司港レトロのシンボルを担う。

現在もJR鹿児島本線の起点である駅には、駅舎以上に、その造りに思わず引かれる。風情ある雰囲気に包まれた起点駅独特の造りに、イスタンブールのシルケジ駅しかり、これまで出会った歴史ある駅の姿がよみがえる。そこに刻まれた人々の足音が聞こえてきそうな、懐かしさを感じる心に響く心地いい雰囲気。なんともいい香りがする。

旧門司税関
明治45年(1912年)築の税関庁舎。門司大空襲で受けた被害を、建築当時の技術で復元修復した赤レンガ造りの建物は、背景の海の青色に映える色鮮やかな姿を見せ、門司港レトロを代表する建物となっている。

三井物産の社交倶楽部として造られた旧門司三井倶楽部と、その雰囲気を今に残す建物の数々。世界の文化を取り入れ近代日本の先駆けとして躍動した町が見せる新古融合の斬新な姿に魅せられ、贅沢な時を過ごす。
   
   

   
 
 
   
   

 
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
top
日本10景
日本を単位に、各地で見かけた魅力スポットを紹介。
ピンポイント紹介に留まらず、内容厚めに、取り上げたい。

 広島県 岡山県 福岡県