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紀伊の古道参詣記
熊野那智大社参拝


最終日は、ゆっくりと朝8時に起床。本州最南端に位置する串本の太平洋を望む高台に建つのがこのホテルで、露天風呂から一望できると言う景色を見るため、さっそく朝風呂へと向かう。

既に利用客もまばらな温泉にゆったりと浸かった後、目の前に広がる太平洋の壮大な景色を堪能。しっかりしすぎた草木による目隠しのため、露天風呂に浸かりながら景色を見れなかったのは、残念。露天風呂で中腰になり景色を眺める滑稽な姿に、高台にある地形を活かした工夫を望む一方、ファミリーリゾートホテルの限界をそこに感じたもので。

朝風呂後、バイキング朝食を食べ、出発準備。ちなみに朝食は、和洋中と多種で、手の込んだ料理というわけにはいかないが、和歌山名物の茶がゆを食べられたから、それはそれで満足する。

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左:露天岩風呂温泉から、太平洋をの景色を望む。
右:いつもと少し趣の異なる、外観立派な串本ロイヤルホテル



せっかくいいホテルだからとゆっくり過ごし、ホテルを出たのは、10時20分。まず、最初の観光地、熊野那智大社を目指す。

串本から、昨日通った道を、再び三重県方面へ40分程行ったところにあるのが、那智大社のある那智勝浦。少し遅れ気味の予定に、急ぎ目でと思った矢先に、奇景を目にし、思わずすぐ近くの駐車場に車を止める。

ホテルから数百m行った先で目にしたのは、橋杭岩と言われる奇岩の並び。そこに、高波があたり、大きな波しぶきとなって、壮観な景色を見せている。晴れ渡る天気ながら、太平洋に面する和歌山県海岸沿いでは、瀬戸内では見ることができない高い波を見せる。風の強さの影響もあるだろうが、遮断物のない太平洋は波が高いようで、昨晩も真っ暗闇での運転中に、突然道路脇の海岸堤防から波しぶきが跳ね上がり、一瞬何が起きたか分からず、驚いたものである。

ちなみに、橋杭岩とは、弘法大師と天邪鬼が串本から大島へ橋を架ける競争をしたと言う伝説が残る奇勝。紀伊大島に向かって850mに渡り、大小の奇岩が連なる姿は、圧倒される迫力がある。

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左:海上に奇岩連なる橋杭岩。異様な景色に、思わず車を止める。
右:高波が奇岩にぶちあたり、大きな波しぶきとなって辺りを包む。



予定外の観光に加え、一車線道路での昼間の低速走行が影響し、熊野那智大社に到着したのが11時30分。大社までは、那智勝浦の中心地、紀伊勝浦駅からさらに車で20分程度と町のはずれにあるのも計算が狂った要因でもある。

麓の大門坂駐車場に車を止め、30分程坂を歩くのが通常の参拝コースだろうけど、既に大幅に時間がおしているから、車で山をあがっていく。土産物屋が立ち並ぶ山腹にある駐車場で空きを探すも、どこも満車状態。いよいよ駐車場エリアの最終地点に近づき、どうしたものかと困っているところで、係員からこの先を右折し、坂を上がった所にある駐車場に止めるよう指示を受ける。

言われたままに向かった先は、大社に隣接する駐車場。駐車料もとられないまま、最も便利な駐車場を利用できる幸運に恵まれる。


那智熊野大社とは、熊野三山の一つで、那智の滝への自然信仰が起源と言われる神社で、熊野夫須美大神を主祭神としている。境内には、朱色の拝殿が並び、熊野造りといわれる本殿を参拝し、境内の奥へと移動する。

奥にあるのは、那智山青岸渡寺。本堂は、豊臣秀吉が再建したもので重要文化財に指定され、かつては修験道の本拠地として栄えた歴史を持ち、現在は、西国一番札所になっている、天台宗の寺院となる。さすがの風格を横目で見つつ、やはり目が行くのは、その先の山肌から流れ落ちる滝の姿。

那智の滝をバックに、「ハイ、ナーチ」という掛け声と共に手持ちのカメラで撮影してくれるサービスがあり、喜んで利用。プロカメラマンによる撮影付きで、よければ隣で写真の購入をと勧められるが、こっちも負けじのいいカメラだから、購入せずに次へと進む。

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左:熊野那智大社。狭い境内に、朱色の社が並ぶ。
右:青岸渡寺本堂横から見る、那智の滝。三重塔と合わせて、なかなかいい景色。



時間がないないと急いだ拝観の理由は、昼食の予約を入れていたことから。余裕を持って13時としていたけど、追加観光や移動に予想以上の時間がかかった結果、既に時刻は12時30分を回り、今から直行して間に合うかどうかといった状況。ここまで来たら、那智の滝を見ずに帰れるかと、全く電波の入らない携帯電話に翻弄されながら、ようやく公衆電話を見つけ、お店に連絡。時間を30分延ばし、観光時間を確保。それでも限られた時間に変わりなく、急いで長い長い参道の階段を下り、滝見台へと到着する。

那智の滝とは、日本三名瀑(華厳の滝(栃木県)、袋田の滝(茨城県))に数えられ、落差133m、幅13mの大滝。元々は、瀧篭修行の行場である48の滝の総称とされたが、現在は、一の滝を指し、滝の自然信仰の聖地とされる。

この一の滝を御神体とするのが飛瀧神社で、滝を目の前にした滝見台が、観覧スポットとなる。注連縄が結ばれた落ち口から三筋に分かれ、原生林に囲まれた岩肌を落ちる大滝からは、荒々しさの中に自然の厳しさ感じさせる突き放すような威厳を感じ、心を研ぎ澄ませて相対す。那智の滝という歴史ある名所を見ることができた喜び、再び山頂の駐車場へと、石段を急いで登っていく。昨日の熊野古道で鍛えられたふくらはぎの下腿三頭筋がバネのようにしなやかに足を前へと進め、まさに修験道の行者のように。

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那智の滝。迫力あるその姿を、目の前にして。






お昼「桂城」


13時ぴったりに紀伊勝浦駅近くにあるマグロ料理屋・桂城に到着。那智勝浦にある勝浦漁港は、延縄漁によるマグロの水揚げ日本一を誇る、マグロの町。それならお昼はマグロを食べようと、評判の高いこの店を事前に予約していたもの。

小道にひっそりとたたずむ店ながら、暖簾の下には6人ほどの行列ができており、人気の程を確認しながら、店内へ。店内は、3つのテーブルと8人程のカウンター席からなり、さっそくきれいに片付けられた畳敷きのテーブル席に案内され、一息つく。

マグロ丼等並ぶメニューを見ながら、おすすめというマグロ定食を注文。完全にキャパを越えている、満席による余裕のないドタバタの接客を眺めながら、料理を待つ。ガイド本にも載る有名店なんだから、ハイシーズンはこのくらい混むだろうにと思いながら、マイペースに調理を続ける親父さんと人のいい若奥さんの一生懸命な接客姿に、おかしなバランスを感じつつ。

マグロ定食(1500円)は、ボリュームのあるマグロ尽くしの一品。分厚く切った赤身の刺身で、もちっとした柔らかな食感を堪能。マグロカツは、火を通して凝縮した旨みがよく伝わり、なかなかよし。煮込みは、甘辛く煮込んだフレークがおいしく、高級ツナといった感じでご飯が進み、鉄板焼きでは、カジキマグロをバターでシンプルに焼くことで、カジキマグロのあっさりした味わいに気付かされる。いつも一品付くというサービスで、マグロの唐揚げを付いてきて、スパイシーに揚げられたマグロが、またおいしくて。

夜は居酒屋として、鮪尽くしを堪能できるというから、そちらもちょっと気になりながら。なにはともあれ、鮪町ならではの鮮度の高さと料理の種類、ボリューム感に満足して、昼食を終える。

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左:那智勝浦のまぐろ料理屋「桂城
右:まぐろ定食(1500円)






熊野速玉大社参拝


この旅行最後の目的地は、三重県との県境・新宮にある熊野速玉大社。熊野三山の一つで、熊野本宮大社、熊野那智大社と合わせて、三社の一角をなす。熊野詣を完結するため、那智勝浦から20分の新宮に到着する。

他の2社と比べると、規模も観光客も少ないながら、朱色の鮮やかな社殿は、ここでも健在。まずは参道で、平重盛が植えたとされる樹齢千年のナギの神木を見学。ちなみにこのナギは、日本最大の規模を誇り、国の天然記念物に指定されている。

熊野速玉大社とは、熊野速玉大神(いざなぎのみこと)と熊野夫須美大神(いざなみのみこと)を主祭神に、12柱の神を祀る神社。神門を通った境内には、他の熊野大社と同様、複数の社殿が連なり、速玉宮、上三殿、中四社、下四社とそれぞれに参拝する。

参拝後、参道のお土産屋でもうで餅を見つけ、一つ購入。もうで餅とは、餡の入った餅に玄米の粉をかけていることに特徴があり、素朴な味わいがおいしく、一つ試食をしたところで購入。熊野詣でのお土産として有名ながら、賞味期限3日はあまりに短く、自家消費ということで帰ってからの楽しみにすることに。

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熊野速玉大社。ちなみにかつての熊野詣は、熊野本宮大社参詣後、熊野川を船で下り、熊野速玉大社を参拝、続いて熊野那智大社を参詣するのが基本ルート。そして最後に、熊野那智大社から標高800mを越える険しい山道を歩く大雲取越を歩き、再度熊野本宮大社を参詣して、終了となる。






熊野川

こうしてこの旅行の目的地全てを回ったところで、帰路につく。場所は、三重県と接する和歌山県の最東。海沿いを走るのは景色がよさそうだけど、幹線道路のため渋滞を懸念し、熊野川を上り、熊野古道を経由する、山道を選ぶ。時間は、15時。自宅まで550kmというナビの表示に、いったいいつ着くことやらと覚悟を決めて、出発する。

熊野川沿いを走りながら、どこかゆっくり熊野川を見る場所があればと思っていると、突如道の駅が現れ、思わず立ち寄る。場所は、国道168号線沿い、新宮から15分ほど北上したところにある、道の駅・瀞峡街道 熊野川(どろきょうがいどう くまのがわ)。

道の駅の店内に入ることなく、熊野川の河原へと下り、だだっ広い川幅を眺め、勢いのある水の流れに目を向ける。熊野川は、奈良県十津川を源流に和歌山県新宮に流れ出る、延長183kmに及ぶ一級河川。台風通過地帯であることからも、全国的に降水量の多い地域で、熊野川流域も、過去に何度も水害をもたらした歴史を持つ。人間の力でコントロールできない、未知なる存在。熊野川が神聖化され、その中州に2千年も前に熊野大社が設けられた経緯を想像する。

広大な川幅と、岸壁の高さが、この川の流量を想像させる。曲がりくねりながら、遠くの山奥に吸い込まれるように流れていく景色は、どこか神秘的で、しばし時間を忘れてその姿に見入る。

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右:河原に下りて、熊野川と対面
左:道の駅から、熊野川を見下ろす。






帰路


道の駅からは、昨日歩いた熊野古道を振り返りながら、古道と並行する国道を順調に進む。新宮出発2時間後の17時に田辺市中心地に到着し、ここから高速道路に乗り、後は道なりに帰るだけと一安心する。

南紀田辺から始まる阪和自動車道は、近畿自動車道に接続し、大阪までつながる高速道路。銀週間も3日目、連休帰宅の大渋滞が予測される中、行きと同じく広島までの道のりは、都市から地方と逆方向の移動となるため、楽観視。南紀田辺から順調に一つ目のICをクリアし、どのSAで夕食を取ろうかと考え始める。

そして、楽しい帰宅ドライブが続いたのも、一つ目のみなべICを過ぎたここまで。突如始まる大渋滞。低速どころか一切進まない状況。南紀田辺から広島までの500km弱の道のりの7km地点から始まった渋滞に、この先を危ぶみながら。

15km先のSAまで2時間かけて到着。これはたまらんと、普段渋滞時には時間ロスを避けるために寄らないことにしているSAに立ち寄り、一休憩。ひとえに阪南自動車道が、一車線によることが大きな原因。大型連休という想定を大幅に上回る需要が、逃げ場のない一車線に集中し、一切車が動かないという最悪の状況を招く。思えば、和歌山南部から大阪までは、地方→都市という大型連休帰宅ラッシュの渋滞要因を兼ね備えた地。こんなことなら、龍神スカイラインを通る高野山を経由した山中の道を選べばと、悔いたもので。

さらに15km進んだ御坊ICからは徐行程度で少しずつ進み始め、出発50km過ぎの海南ICを過ぎた頃には、それなり落ち着きを取り戻す。和歌山市内の街明かりを眺めつつ通り過ぎ、21時30分に出発70km過ぎの紀ノ川SAで、ガソリンを補充し、合わせて夕食を取る。人であふれた食事エリアで、さっさと食べられるカレーを選択。もう少しこだわりたかった、旅行最後の食事を済ませ、いよいよ後は帰るだけに。

紀ノ川SAを過ぎると、渋滞もほぼ解消。渋滞の鬱憤から解放され、先を競うかのように車の流れに乗り、大阪、兵庫、岡山と近畿・中国・山陽自動車道を駆け抜ける。

そして、広島ICからほど近い自宅に到着したのが、深夜1時。寄り道をしながらも、帰路についた和歌山県新宮市から、10時間の道のり。通常でも7時間程度かかることを思えば、そこまで大きな遅れに思えないこともないが、まあ、久々強烈な大渋滞だったと振り返る。

ただ思うのは、かけた時間以上に、疲労を感じていないこと。高速道路千円に便乗して車移動を選択した今回の旅行を振り返り、意外となんとかなるものだと、むしろ自信になったもので。






旅感想


古来人々が神を求めて歩いた、現存する古道。いつか自分の足で歩きたい、そんな思いを持ち続け、いつしか世界遺産として取り上げられる機会が増えたことが、紀南への旅を決断した大きな理由。9月にできた大型連休も、旅行後見込まれる疲労からの十分な回復期間を計算でき、この機会を利用しての旅行の後押しとなる。

熊野古道と熊野三山参りをメインに据えた検討で、経由地としてとても便利な高野山の立地を知り、高野山参拝・宿坊泊という、古道歩きに匹敵する大きな目的を加えられたことは、この旅を一層意味のあるものにしてくれた。

そこでしか感じられないものがある。どんな旅も、目的はいつもそこにある。映像で見ようが、本で読もうが、人から話を聞こうが、決して分からないこと。自分自身がその地に立ち、自分に問いかけ、全身で感じて、初めて、見えるものがある。その積み重ねが、自分に返ってくると知っているから、また自分を追い込み、新たな発見のある地へと出かけるわけである。

歴史と文化が交錯する地、熊野。また機会を見つけ、いろいろなルートを歩いてみたいと思わせる、熊野の魅力を心に刻んで、またこの地を訪ねることとしよう。




                                                                                          




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