07年12月25日−30日  in イスタンブール
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オリエントの世界に魅せられて
5日目(12月29日)


いよいよトルコ最終日。昨晩帰宅が遅かったことから、6時30分と少し遅めに起床し、8時から朝食をとる。昨日までのホテルと違い、大衆食堂のような朝食会場での食事はいまいち。前二日が、恵まれた環境だったことに気付く。食後は、荷物をまとめ、フロントにスーツケースを預けた後、観光に出発。帰りの飛行機の便が19時発のため、14時までを観光時間とし、行動開始。





ヴァレンス水道橋


まずは、ホテルから歩いてヴァレンス水道橋を訪ねる。ここは、ホテルを目指してタクシーで移動中に場所を確認し、歩いて行けそうだからと観光地に入れたもの。ヴァレンス水道橋とは、アタチュルク通りという大通りに架かるローマ時代の水道橋で、高さは26mの2階建てとなる。378年にヴァレンス皇帝の時代に完成し、郊外から宮殿などのある中心部の地下貯水池まで水を引いた、水不足の問題を抱えていたイスタンブールの重要なインフラで、現在も800mに及ぶ石積みの橋が残っている。石積みの重厚な橋を真下から見上げ、規模の大きさを実感しながら、散策を楽しむ。

   
左:水道橋に沿って、移動。坂のある街だから、下り坂となるここから先にかけて、橋も二段になっていく。
右:代表的な水道橋の姿。車の大きさから、その規模がよく分かる。丘が続く街での水源確保の困難さと、現在にも残る施設を造るローマ時代の技術力の高さに感心する。






スレイマニエ・ジャーミィ


水道橋をくぐった後は、そのまま歩いての散策を続ける。水道橋からさらに30分ほど歩き、地元住民が生活する住宅街を抜け、目指したのは、スレイマニエ・ジャーミィ。スレイマニエ・ジャーミィとは、オスマン帝国の国土を最大に広げ、遠征に明け暮れていたスレイマン1世が、ハンガリーに勝利し帰国した際に建造を命じ、1557年に完成したモスク。オスマン帝国絶頂期にあり、天才建築家スィナンの手による最高傑作として名高く、イスタンブール旧市街の一番高い丘に立つモスクということで、ぜひにと訪ねる。

一番高い丘というだけあり、モスクの姿が見えてからもかなり坂道を上がり、ようやく到着。入場無料で、気軽に見学する。

      
左:外観。せっかく高台にあるけど、周りを見渡せる環境になかったのが、残念。
中:モスクの中。礼拝堂は70m×61mの長方形で、高さは47mとなる。138枚あるという窓には、イスラム装飾のステンドグラスも見ることができる。
右:天井には、直径約26mの大ドームがある。装飾の美しさを見ながら。






グランド・バザール


今日の最大の目的は、お土産を買うこと。イスタンブールには、グランド・バザールとエジプシャン・バザールの2種の巨大市場があり、そこの訪問を最終日の楽しみにしていて。まずは、エジプシャン・バザールを訪ねようと、方向に見当をつけながらスレイマニエ・ジャーミィから歩いていく。しばらく歩いて、人でごった返した市場に出たから、エジプシャン・バザール到着を確信。とりあえず、一度通り抜けてみようとアーケード街を出た先で見つけたのは、グランド・バザールの大看板。どうやら、人の流れに乗せられ、南北逆の市場に来たようで。

ということで、計画を変更し、先にグランド・バザールの見学を行うことに。グランド・バザールとは、コンスタンチノープルを征服した直後にメフメット2世が建築を命じたバザールで、1461年に完成。当初は小さな市場だったものが、だんだんと増築され、道路を含めて屋根で覆われていったという。現在は、5000近い店舗と2000以上の工房のほか、銀行、モスクなどがあり、扱う商品ごとに商店が集まっている特徴がある。

観光客向けの商品が多いといわれるグランド・バザールで買物する気はあまりなく、当初からエジプシャン・バザールで買おうと思っていたから、ここは通り過ぎるだけ。金や銀製品は値が張るし、陶器にも特に興味なし、値の分からないアンティークに金をかける気もないし、ウインドウショッピングに終始することに。

   
左・右:グランドバザールの周りと、バザール内の風景。店の前の店員さんからは、こちらから質問しない限り特に声をかけられることなく、通り過ぎる。






エジプシャン・バザール


10時にグランド・バザールに到着し、バザール内を見学しながら通り抜け、ガラタ橋のあるエミノニュ桟橋方面へと歩く。街中を散策するのはおもしろく、トルコの日常生活を垣間見ながら、トラムのシルケジ駅を通り、11時にエミノニュ桟橋の向かいにあるエジプシャン・バザールに到着する。

エジプシャン・バザールとは、イェニ・ジャーミィの施設の一部の建物を、1660年に市場に改装したという歴史のあるバザール。その名の通り、エジプトの市場を意味し、エジプトのカイロで積み立てられた香辛料貿易の税金が建設費用に使われたことにより、名付けられたという。現在は、ハーブやスパイス、食品を扱う店が多く、地元の人で賑わう。店の数は80余り、グランド・バザールより庶民的なのが売りという。

人は多いが、どこか落ち着いた雰囲気に、ゆっくりとお店を見て回る。無駄に声をかけられることもなく、やっぱり買物とはこうありたいと思いつつ。

      
左:左の建物が、エジプシャン・バザールの入口。右のモスクが、イェニ・ジャーミィ。
中:バザールの中。庶民的な雰囲気で、ゆっくりと見て回る。
右:通称スパイス・バザールと呼ばれるだけあり、香辛料の店が多い。店頭に並べられた香辛料の色鮮やかさに引かれて。



今回、トルコ旅行のお土産に考えたのは、トルコ石と絨毯。そして、もちろん自分への。まずは、適当に見つけたトルコ石屋で、見映えのいいトルコ石を2000円で購入。これで、とりあえず奥さんへのお土産を買い終え、安心して自分へのお土産探しに精を出す。

ここで目指したのは、バザール内にある絨毯屋「ガレリ・セルチュクス」。ある程度信頼できる店で商品を見てみたいとの思いがあったから、ガイドブックに紹介され、安くて良いものを適正価格でをモットーに、絨毯が7000円からあるというこの店を訪ねる。高級絨毯に投資する気はなく、自分の目に留まるものがあればと訪ね、まずは1階でキルトという織物をつなぎ合わせたソファカバーを検討。値段も、6000円程度とかなり手頃で、コタツカバーに使えそうだと真剣に悩む。数種類の中からある程度目星をつけ、絨毯も見てみたいんだけどと話を向ける。そして、絨毯が置かれている地下に案内され、ここから1時間半に渡る長丁場の交渉が始まる。

若いトルコ人のオーナーは、日本に5年滞在し、愛知万博にも出品したという日本通。奥さんが日本人なこともあり、日本語はペラペラ。また、商売人にありがちな、軽い乗りじゃなく、芯のある対応だったこともあり、ある程度信頼のおける人物だと見極める。それでも、お金がかかれば話は別で、当初から警戒しての交渉を開始。向こうは全て日本語で説明してくれ、こちらは英語で返事をするという不思議なスタイル。とりあえず、外国で気軽に日本語を使うほどガードは緩くないもので。

玄関マット程度でいいから、質のいい絨毯を求めるも、質を求めるとある程度の大きさになることを知る。手織りの上物となると、絨毯の製法から、一定の規模がなければ生計が成り立たないようで、玄関マットクラスは質が劣る物ばかり。絨毯は、トルコ東方の冬の厳しい地域程、冬の貴重な収入源として技術が発達してきたが、3ヶ月以上と製造にかかる時間から手織り技術の継承者が減り、既に廃れつつある状況のよう。そのため、上質の製品ほど値段が上がり続けており、トルコ中央部に位置するヘレケ地方の繊細な柄が入ったシルク製品は、とても手の出ない値段になっていて。

絨毯の見方を一から習う。絨毯の評価は、裏地で決まるといい、1cm四方に何回織り返しがあるかが一つの目安のよう。目が多いほど作業時間を要し、細かい柄ができるというから、真っ当な理由。値段の安い絨毯は、明らかに裏地の出来が違うからおもしろい。いい物になると、裏地だけで十分見映えのいい柄を見せているから、一つの参考に。

結局選んだのは、ウール100%の絨毯。100cm×150cmの大きさで、深いエンジの色と落ち着きのある伝統柄に一目ぼれ。上級シルク製品は玄関マットサイズで10万円と値段も高く、厚みがないためイメージする絨毯と少し違い、対象とせず。ウールは、冬は暖かく、夏はさらりとした肌触りで一年中使えるのもよし。なんともいえない肌触りは、一度触ったら癖になり、それが決め手になったところもある。シルクのような輝きを持つこの絨毯は、羊毛の中でも、首の周りの上級部位のみを使用し、編み込みも特殊で、数年かけて織り上げたものという。東方の山間部で作られ、使い込むほどに変わる風合いも魅力の一つ。また、絨毯は、それぞれの角度から見え方が変わり、片側からは明るい色に、もう片側からは深い色に変わる。見え方により、絨毯を敷く方向もあるんだとか。

値段交渉はいつものように粘り腰で、60,000円という値を引き出す。十分価値を感じているから買う気でいるが、もう少し上積みを狙い交渉継続。せっかくだから、最初に見ていたソファーカバーを付けた上、これじゃ両親へのお土産が買えなくなるからとクッションカバーを2つ加えて63,000円と妥協を受けて。トルコの旅を思い返せるようなものをとの思いで探したお土産。最高の物を買えたという満足に浸る。ちなみに、帰り際に、トルコ石のペンダント(7700円)も購入と、結局お店に貢献していたりする。本物のトルコ石とはなんぞやということを聞き、前の店で買った石が違う種類のものだったことを知る。シルバー細工を型に入ったトルコ石のパワーに魅せられてしまい、即決したもので。

2時間近く滞在し、この店でお土産購入も終了。3回程振舞ってもらったチャイを飲みながら、のんびりと話をし、時には絨毯を前に一人で考え続けたもので。その分、オーナーさんとは打ち解け、最後は日本語でいろいろと会話をする。トルコの経済成長の実感や、物価上昇の現状を聞く。ユーロ圏の影響が強いイスタンブールは、本当に物価が高い。少なくとも、トルコ通貨の1YTLは、100円程度の価値で、ちょっとした外食で15YTL、コーラ一本で2YTL取られることを思えば、日本とほぼ同じ物価であることが分かる。賃金が上がっても物価上昇に追いつかず、郊外で暮らす住民の生活は厳しいらしい。ちょっとタブーの政教分離の精神やイスラム教国家ということでEUに加えてもらえないという愚痴を聞いたり。また、日本語を話せることの強みを聞き、団体旅行が多く提携した土産物屋に連れて行かれる日本人は、売上に占める割合はほとんどなくなり、お得意様は他の国に移っているという返答を得たり、なかなかおもしろい時間を過ごせて。

思うに、この店はかなり良心的な店ではないか。少なくとも、絨毯のいろはを学ぶに、ここを訪ねてみてもいい。結局、細かい内容は、日本語じゃなきゃ分からないことも多い。大きな絨毯は、何十万とするものとの思いもあったから、市場価格の参考としてもいいのだろう。40代と思われる若いオーナーは人柄がよく、いろいろ説明を受けても、「他を回ってまた来ます」という逃げ口上が使えそうだしと。

最後は、お店の前で写真を撮って、13時30分にお店を後にする。


左:エジプシャン・バザールに位置するお店入口。
中:ここが地下の絨毯置場。ここに置かれているエンジ色の絨毯の柄違いを購入。
右:入口でオーナーと共に。当たりの店に出会うと、旅行そのものが楽しい思い出になり、嬉しいもの。






昼食、そして帰国へ


すっかりお昼も遅くなり、エジプシャン・バザール近くのファーストフード店での食事とする。結局この旅でまだ食べていないビーフのドネルケバブにしようと、店頭でケバブを焼くこの店にしたもの。コーラとポテトのセットで650円。カウンターテーブルで立って食べるというスタイル。一応今日のランチに、バザール近くの店を見つけていたけど、結果手頃なところで済ますのは、いつもの傾向で。

   
左:バザール前にあるお店。店頭に見えるケバブに引かれて。
右:ジューシーな牛肉がおいしく、一息を入れる。



昼食後は、トラムを利用し近くの駅まで行き、そこから歩いてホテルへ帰る。14時20分に到着し、スーツケースを受け取った後、すぐに空港に向け出発。再び歩いてアクサライ駅に行き、地下鉄に乗って空港まで向かう。

十分に余裕を持っての、15時30分空港到着。しばらく空港で読書をしたりと時間を潰し、16時35分にチケットを受け取る。18時40分に飛行機に乗り込むまで家族や会社へのお土産を数点購入し、19時20分イスタンブールを飛び立つ。







6日目(12月30日)


帰りのドバイ乗り継ぎは、スムーズ。23時15分、ドバイ時間1時15分に到着し、2時50分発と滞在時間は1時間半程。行きの8時間に及ぶ滞在は、もう少しなんとかならないものかと思ったり。ドバイ出発後、すぐに用意された食事は断り、そのまま就寝。そこから、約9時間の飛行、12時00分、日本時間17時00分に関西空港に到着する。

日本国内の移動は、時間に余裕もあるから節約を優先。別料金のかかる特急電車は使わずに、JR快速でのんびりと新大阪駅へ。19時に新大阪発のひかりレールスターに乗り、21時に新山口駅に到着する。そして、6日間に渡るトルコ・イスタンブールの旅を終える。









旅を終えて


歴史のある場所で空気を感じ、街全体の造りを把握し、おいしい地元の料理を求め、街の人々と触れ合う、その期間中動き回って、街の魅力を存分に堪能する、いつもの旅をここに終える。

旅とは何か。イスタンブールの地で考え、自己製作本の巻末にも載せたこの言葉に、凝縮される。

「旅とは、「自分のあり方」を教えてくれるツールである。異なる環境に身を置き生まれる新たな世界観が、ルーティンな日常により狭まっていた視野を大きく外へと広げてくれ、何者にも束縛されない無限の時間が、否応なしに自分を見つめる機会を与える。異なる視点で見つめる自分に、内面を覆う衣は容易にはがれ、あるべき姿の答えを見つける。
生き方に悩んだとき、新たな価値観を見出したいとき、自分の存在を確認したいとき、また人知れず、一人、旅に出ることだろう。」

社会に出て8年目、着実に積み重ねたものがありながら、ますます見えなくなる会社での自分の将来像に対する不安や自分の目指す姿との乖離による葛藤に悩んでいた時期で、日常となっている自分を取り巻く殻を破りたいとの思い、仕事なんてちっぽけなことで悩んでいる自分を戒めようとの思いが、この旅へとかりたてた理由でもあったことを思い出す。


イスタンブールが持つ魅力は、強大な権力が入り交じったことにより、独特の文化を作り上げていることにある。欧州とアジアが接する特異な地域性も、キリスト教とイスラム教の境界となった事情も、さらにその独特の文化に複雑さを与える。また、三度、世界を席巻した帝国の都となった歴史的背景も、聞くだけで胸が躍り、人類の歴史を感じられるという魅力を加えている。

文章や映像だけでは伝わらないもの。直接全身で感じなければ伝わらないものを持っているから、時間とお金をかけてその地を訪ねる。そして、ここイスタンブールは、言葉では言い表せない何かを持っているから、こうして訪ね、その感じたものを少しでも伝えられればと、ここで表現しているとこである。

旅を終えて、それまでと少し違う価値観を持つ自分がいる。それだけで、この旅は成功で、また、旅に出かけようと思うのである。



現実的な費用を最後に記す。
◎ 合計 340,440円

○ 国内諸費用 220,150円
   ・ 航空券    192,120円
   ・ 国内新幹線  26,230円
   ・ 飲食等      1,800円

○ 現地諸費用 46,400円
   ・ ホテル     21,000円
   ・ 入場料     6,400円
   ・ 食事       5,600円
   ・ ダンス鑑賞   8,400円
   ・ 現地交通費  5,000円

○ お土産 73,890円